はじめに(この記事で分かること)#

AirVPNの登録ページには、メールアドレス欄の下に「実在のメールアドレスは必須ではなく、任意の文字列を入れてよい」と書いてある。支払いのページには、Moneroを含む5種類の暗号資産を「仲介なしで直接受け付ける」とある。顧客記録に名前を残さない入口としては、大手のVPNよりはるかに細い。

一方で、AirVPNは外部の監査を受けていない。受けない理由を運営者自身がフォーラムで説明している。ノーログが試された記録も、裁判資料ではなく運営者の投稿にしか残っていない。入口は細いが、その先の主張を確かめる材料は少ない。この記事は、その非対称を5軸で整理し、どの脅威モデルなら合理的な選択になるかを示す。事実はすべて2026-11-08に公式サイト、公式フォーラムの運営者投稿、GitHubで確認した。

前提: 脅威モデルの整理#

脅威モデル入門の5種類の相手のうち、VPN事業者という一つの観測点に何を預けることになるのかを先に整理する。

VPNに接続すると、ISPに見えていた通信先は見えなくなる代わりに、VPN事業者が接続元のIPアドレスと通信先の両方を見る位置に立つ。事業者の評価とは、この位置に立つ相手を信用できるかの評価だ。信用の根拠は三つしかない。事業者の宣言、第三者の検証、そして法的手続きで実際に何も出てこなかった記録である(ノーログVPN 2026年版の5段階)。

AirVPNを選ぶかどうかで変わるのは、主に二つの相手に対する備えだ。一つは事業者に法的要請が届く場面での法執行機関、もう一つは事業者の顧客データベースが漏えいした場合にそれを手にする誰かである。広告網やプラットフォームに対しては、どのVPNを選んでも差は小さい。Cookieやブラウザの特徴による追跡はVPNの外側の問題だからだ(ブラウザフィンガープリント)。

5軸評価: ノーログ実績#

AirVPNのFAQは、身元や通信を追跡できるログを取っているかという問いに「No, we don't keep logs of that kind.」と一行で答えている。プライバシー通知はもう少し具体的で、接続に必要な技術データは自動処理でRAM上にのみ置き、利用者の通信内容やIPアドレスは記録媒体に保存しないと書く。ここまでは事業者の宣言で、証拠の強さとしては最も弱い段階にあたる。

宣言が試されたとされる出来事は一件ある。2023年10月、公式フォーラムで「裁判所命令やサーバー押収を受けたことはあるか」と尋ねた利用者に、AirVPNのスタッフアカウントが、2015年にトロントのサーバーが押収されていたと初めて明かした。投稿によれば、サーバーは事業者に知らされないまま持ち去られ、約10日後にイタリア警察から連絡があった。トロント警察とFBIがサーバーからログを見つけられず協力を求めてきた、という内容だ。スタッフは「ログが見つからないのは当然で、存在しなかったからだ」と書き、当時はクライアント証明書すらVPNサーバーに保存していなかったと説明している。公表を7年以上控えた理由は、捜査を妨げないためだという。

この記録の読み方には注意が要る。投稿自身が、事業者は裁判所の文書を一切受け取っておらず、警察との非公式なやり取りに基づく報告だと断っている。押収の事実もログがなかったことも、確かめられるのは運営者の言葉だけだ。2023年4月のMullvadの令状捜査のように、第三者の記録で裏付けられる種類の実績ではない。さらに、このスレッドは2026-11-08時点で公式フォーラム上では表示されず(404)、Internet Archiveの2024-03-26の保存版でしか読めない。削除の理由は確認できなかった。

読みとしては、「押収されてもログは出なかった」という主張は存在するが、L3(法的手続きでの実証)として数えられる強さはない、というのが妥当だろう。7年の沈黙は、捜査への配慮と受け取ることも、透明性の不足と受け取ることもできる。同じスレッドでもモデレーターを含む複数の利用者が後者の立場から批判していた。

5軸評価: 監査#

AirVPNは、ノーログについての独立監査を受けていない。2026-11-08時点で、公式サイトにも公式フォーラムの告知にも監査報告書は見当たらない。

これは偶然の欠落ではなく、運営者の方針だ。2023年10月、なぜ監査を受けないのかという質問に、スタッフは次のように答えている。外部の企業にサーバーのroot権限を渡して監査させることは現時点では受け入れられない。そうした監査は将来ログを取らないことを保証できない。その代わり、ペネトレーションテストは有用と考えており、独立した研究者やバグハンターが頻繁に行っていて、バグ報奨金制度もある、と。技術仕様ページには、脆弱性開示ポリシーとバグ報奨金のページへの導線が置かれている。2025年9月にも利用者が「監査はまだ検討外か」とフォーラムで尋ねているが、確認時点でスタッフの返信は表示されていなかった。

「監査は時点評価にすぎない」という運営者の指摘そのものは正しい。監査は監査期間中の状態しか保証しない。ただ、読者の側から見れば、ノーログを確かめる手段が宣言と運営者の説明しか残らないことに変わりはない。クライアントのソースコードは公開されているが(後述)、サーバー側でログを取っていないことはソースコードからは確かめられない。

匿名性重視VPNランキングはこの軸を「独立監査の実績が乏しい」としている。一次情報に照らすと、実態は「乏しい」より強く、「ない。運営者が受けない方針を表明している」である。

5軸評価: 匿名開設と決済#

アカウントの識別子#

登録ページの入力欄は、表示名、メールアドレス、パスワード、画像認証の四つだ。メール欄は必須項目だが、その下に「Real e-mail address is NOT mandatory, you can enter a random string.」とある。実在しないアドレスを入れた場合は、パスワードの再設定と、案内・サポートのメールを受け取れなくなるという注記が続く。プライバシー通知も、有効なメールアドレスはサービスの利用にもサポートにも必要なく、提供は任意だと書いている。

既存記事の一部はAirVPNについて「使い捨てメールを推奨」と書いてきたが、登録ページ、FAQ、プライバシー通知のどれにも、使い捨てメールを推奨する文言は見当たらなかった。公式が言っているのは「実在のアドレスは要らない」であり、捨てアドレスを勧めているわけではない。結果として顧客記録に実在のメールを残さずに済む点は同じだが、出典を引くときは区別したほうがよい。

番号だけのアカウントを発行するMullvadやIVPNと比べると、AirVPNには表示名とパスワードがあり、表示名はフォーラムの名前としても使われる。表示名やパスワードを別の場所と使い回せば、そこが区画の間の橋になる。また、実在しないメールで登録すればパスワードを忘れたときに戻る道がなくなる。これは事業者の不親切ではなく、識別子を持たないことの裏返しだ。

登録ページには「イタリアに居住していないことを自己の責任で宣言する」というチェック項目がある。利用規約の第1項も、イタリアの居住者は利用できないと定めている。理由は公式ページでは説明されていなかった。

決済手段と料金#

料金は購入ページの記載で、すべてユーロ建てだ(2026-11-08確認。税の扱いの記載はない)。

プラン料金
3日2ユーロ
1か月7ユーロ
3か月15ユーロ
6か月29ユーロ
1年49ユーロ
2年79ユーロ
3年99ユーロ

購入にはアカウントが先に必要で、決済はその後になる。購入ページは、Bitcoin、Litecoin、Bitcoin Cash、Doge、Moneroの5種類を挙げ、「Accepted directly through no intermediaries」と書いている。BitcoinについてのFAQも、取引に仲介業者は入らず直接AirVPNに支払う形だと説明し、Bitcoinのクライアントを常にTor経由で動かせばプライバシーを大きく高められると付け加えている。以前は決済代行(CoinPayments)経由だったという情報が出回っているが、現在の公式ページの記載とは合わない。

暗号資産以外では、同じページにPayPal、Amazon Pay、Stripeの決済ロゴが並ぶ。Stripeの画像にはVisa、Mastercard、Apple Pay、Google Pay、iDEALなどのロゴが含まれている。購入画面の中で実際にどれが選べるかは、アカウントを作らないと確認できないため、ここでは「公式ページの記載では」という範囲に留める。現金での支払いは記載がない。友人への贈り物として、残高クーポンとプランクーポンを買う仕組みもある。

匿名性の観点で選べる経路は、事実上Moneroになる。Bitcoinは仲介がなくても台帳上で追跡できるからだ(BitcoinとMoneroの追跡可能性)。プライバシー通知は、PayPalのような仲介業者を使った場合、利用者が仲介業者に渡したデータはAirVPNの管理下にないと明記している。カードやPayPalで払えば、顧客記録の外に名前が残る。この比較の全体像はVPNを匿名で支払う方法で扱った。Moneroをどう手に入れるかという入口の側で名前がつく問題は、Moneroの入手方法を参照してほしい。

返金について、利用規約第9項は、支払いから30営業日以内の書面による請求で全額返金を受けられるとする。ただし規約違反があった場合や、30日を超えて利用した後の請求は対象外だ。

Torからの登録#

技術仕様ページには、公式サイトのonionアドレス(airvpn3epnw2fnsbx5x2ppzjs6vxtdarldas7wjyqvhscj7x43fxylqd.onion)が記載されている。登録や支払いの操作そのものを、自宅のIPアドレスを事業者に見せずに行える。顧客記録に残る接続元を気にする読者にとっては、メール欄より実質的な意味を持つかもしれない。

5軸評価: 管轄とインフラ#

運営主体と管轄#

利用規約は、AirVPNの運営者を「AirVPN di Paolo Brini - Via Sagittario 4 - Perugia (ITALY)」としている。プライバシー通知のデータ処理責任者は「Air di Paolo Brini」で、連絡先はペルージャの別の住所(c/o Studio Papa)だ。サイトのフッターにはイタリアのVAT番号(IT03297800546)と商業登録番号(REA PG - 279011)がある。運営者名に個人名が入っているが、法人形態は公式ページからは確認できなかった。

About usのページによれば、AirVPNは2010年に活動家とハッカーの小さなグループが始めたプロジェクトで、2012年11月まではIridiumという会社が運営し、その後同じメンバーで設立したAirに移管された。Kapeのような大きな親会社は存在せず、Airの事業はAirVPNと関連プロジェクトに限られると書かれている。

準拠法は、利用規約第13項でEUの規則593/2008と定め、裁判管轄は欧州司法裁判所とイタリアの裁判所としている。プライバシー通知は、EU域外の機関の管轄を認めず、EUの法にのみ応じると明言している。つまり、法的要請の経路はイタリアとEUの手続きを通ることになる。日本の発信者情報開示命令がこの事業者に直接届くわけではない(日本の発信者情報開示命令)。

イタリアやEUのデータ保存に関する法令がVPN事業者にどう適用されるかは、今回一次情報で確認できなかったため、評価に含めていない。読者が利用するサーバーの所在国の法も別に効く。

サーバーとRAMディスク#

サーバー状況のページ(2026-11-08確認)では、250台のサーバーが23の国と地域にあり、日本には8台が置かれている。About usの「19か国」という記述より新しい数字だ。

RAM-onlyについて、公式サイトに独立した説明ページはない。根拠になるのは2023年4月のフォーラムでのスタッフの回答で、内容は次のとおりだ。HDDかSSDは起動用に使い、ブートローダーとネットワークを立ち上げるためのカーネルが入っている。それ以外の設定ファイル、スクリプト、鍵は起動後にネットワーク経由で取得する。再起動の際は運営側が手動で許可するまで必要なファイルを取得できず、許可の前にカーネルなどを原本と照合する。取得したファイルはすべてRAMディスクに置かれる。前述の押収事例の投稿(2023年10月)にも、現在はRAMディスクで動かしているが2015年当時は違った、という一文がある。

既存記事は「RAM-onlyは段階的導入中」と書いてきたが、運営者の説明は「起動用のディスクは残るが、運用に関わるファイルはRAMディスク」という構成で、移行が途中だという記述は見当たらなかった。どちらにしても、第三者がこの構成を確認した記録はない。ディスクレスを掲げる事業者と比べると、起動ディスクが物理的に存在する点は違いとして残る。「フルディスク暗号化」という説明も一部で流通しているが、公式ページとフォーラムの運営者投稿では確認できなかった。

About usは、利用者のデータベースをVPNサーバーには置かず、外部と直接通信しないバックエンドのサーバー群に分けていると説明している。プライバシー通知も、データベースのうち検索に使わない個人データは暗号化していると書く。いずれも事業者の説明で、外部からの検証はない。

オープンソース#

公式クライアントのEddieは、GitHub(AirVPN/Eddie)でGPLv3のもとに公開されている。2026-11-08時点の最新版は2.26.2だ。Eddieの公式サイトは、AirVPN以外のOpenVPN・WireGuard事業者でも使えると説明している。ソースが読めることはクライアント側の不審な挙動を調べる手がかりになるが、サーバー側の運用を保証するものではない。

iOS向けの公式アプリはない。FAQによれば、Appleの方針ではApple自身のプロセスやアプリがVPNトンネルを迂回でき、App Storeの方針がGPLと両立しないためだという。

5軸評価: 技術の先端性#

暗号とプロトコル#

技術仕様ページによれば、OpenVPNとWireGuardの両方に対応し、OpenVPNはChaCha20-Poly1305やAES-256-GCMで、制御チャネルをtls-cryptで保護する。耐量子については、仕様ページに「Pre-shared key (post-quantum resistance): Yes」とある。2023年2月のフォーラムでスタッフは、WireGuardでクライアントごとの事前共有鍵(pre-shared key)を既定で使っており、利用者の操作は要らないと説明した。耐量子暗号のアルゴリズムそのものは、評価が固まっていないとして導入を見送っている。

この方式は、Mullvadが導入しているような耐量子の鍵交換とは別物とみられる。事前共有鍵は設定ファイルで配布される固定の秘密で、量子計算機に対する備えとしては、その鍵が漏れないことに依存する。

WireGuardのプライバシー上の弱点について、FAQは自分から説明している。WireGuardはOpenVPNと違ってトンネル内のIPアドレスを動的に割り当てず、設定ファイルに固定のアドレスを書く。AirVPNでは鍵をいつでも更新でき、更新すると新しいランダムなアドレスが割り当てられる。また、WireGuardは接続を切った後もサーバーに利用者の実IPを保持する設計だが、AirVPNは180秒ハンドシェイクがなければピアを削除し直して、メモリから実IPを消すという。

難読化と検閲回避#

OpenVPNには53、80、443などの複数の入口ポートがあり、SSLやSSHのトンネルを重ねる接続も用意されている。Eddieの公式サイトは、SSH・SSL越しのトンネルとTorとの直接統合を検閲対策として挙げている。一方、2024年10月のフォーラムでスタッフは、WireGuardのトラフィックを偽装する特定の方式はサーバー側で実装しないと回答した。WireGuardを検閲の強い回線で隠したい場合、AirVPN側の仕組みは期待できない。検閲回避の手段の全体像の中では、OpenVPNをSSL・SSHで包む旧来の方法が中心だ。

トラフィック解析への対策#

About usは、各サーバーで入口と出口のIPアドレスを分けており、入口と出口が同じIPのVPNで起きやすい相関攻撃の一部を防ぐと説明している。ただ、MullvadのDAITAのように通信量や時間のパターンを崩すパディングの仕組みは、公式の技術仕様にもFAQにも記載がない。両端を観測する相手に対するタイミング相関への備えは、この事業者の設計の範囲外と考えたほうがよい。

Torとの組み合わせ#

AirVPNは、Torと組み合わせる二つの順序の両方について、公式ページで手順と注意点を示している。

一つ目は、AirVPNが「Tor mode」と呼ぶ接続方式で、利用者の端末からTorを経由してAirVPNのサーバーにつなぐ。一般に「VPN over Tor」と呼ばれる順序で、AirVPNのサーバーには利用者の実IPではなくTorの出口ノードのIPが見える。公式ページによれば、この方式はAirVPNのクライアントでしか動かず、Network Lock(AirVPNのクライアントが持つ通信遮断の機能)とは今のところ併用できない。OpenVPNのセッションごとにTorの回線が固定されることも、欠点として挙げられている。ページが前提にしているのはOpenVPNで、WireGuardでこの方式が使えるかどうかは書かれていない。

二つ目は、Tor mode以外の方法でAirVPNに接続してからTorを起動する「Tor over AirVPN」で、一般に「Tor over VPN」と呼ばれる順序である。Torの入口ノードには利用者の実IPが見えなくなるが、AirVPNのサーバーには見える。公式ページはあわせて、暗号化していない通信は悪意のある出口ノードから守られないことと、Tor Browserの通信はVPNのトンネルの外を通ると書いている。

当サイトで個別レビューを書いた6社のうち、VPN over Torの接続方式を公式に用意していることを確認できたのはAirVPNだけである(ほかの5社については、同等の機能を公式資料で確認していない)。ただし、この順序が合理的になる脅威モデルは限られる。どちらの順序で何が誰に見えるかは、VPNとTorの組み合わせで整理している。

ポートフォワーディング#

上級者向けという評判の中心にあるのが、リモートポートフォワーディングだ。FAQによれば、1アカウントで最大5つのポートを開けられ、2048番以上の番号を選ぶ。開けたポートは契約が有効なあいだアカウントに予約されたままになる。VPNの出口IPアドレスでサービスを外部に公開でき、BitTorrentの受信接続を改善する目的でも使われる。FAQは、同じポートを自宅のルーターでも開けると相関攻撃にさらされ、トンネル外に暗号化されていないパケットが出る可能性があると警告している。

便利さの裏で、予約されたポート番号はアカウントに固定される。同じ出口IPとポートの組み合わせで長期間サービスを公開すれば、それ自体が「同じ人」を結ぶ識別子になりうる(推測。公式の説明ではない)。

脅威モデル別の向き不向き#

広告やトラッキングを避けたい人(beginner)には、AirVPNを選ぶ理由は薄い。広告網はIPアドレスよりCookieとブラウザの特徴で追うので、どのVPNでも効果は限られる。AirVPNにはアカウント単位でDNSのブロックリストを選べる機能があるが、トラッカーを遮断するブラウザのほうが効く。加えて、iOS向けの公式アプリがなく、設定項目が多く、実在しないメールで登録するとパスワードを失ったときに戻れない。初めてのVPNとしては手間の割に得るものが少ない。この脅威モデルなら、設定に迷わないクライアントを持つ事業者のほうが合理的だ。

取材源を守る記者(journalist)の場合、評価は割れる。入口の匿名性は強い。実在のメールなしで登録し、Moneroで払い、onionサイト経由で手続きすれば、顧客記録から本人にたどる橋はかなり細くなる。一方で、ノーログを確かめる材料は運営者の説明しかない。法執行機関や取材先の組織が相手になるこの脅威モデルでは、事業者を信用しなくて済む構成のほうが筋がよい。調べものはTor Browserで行い(Tor Browser実践ガイド)、VPNはISPから接続先を隠す補助として使う。そのうえでVPNを選ぶなら、令状捜査や公開された監査報告で裏付けのある事業者と比べたうえで、AirVPNの入口の細さをどれだけ重く見るかを決めることになる(VPNとTorの組み合わせ)。

自宅の回線でサーバーを動かす開発者にとっては、ポートフォワーディングが他社にない選択肢になる。小さなサービスをVPNの出口IPで公開すれば、自宅のIPアドレスを直接さらさずに済む。ただし、VPNの出口IPは他の利用者と共有され、AirVPNの利用規約は不正アクセスやポートスキャンへの利用を禁じている。サーバーが外向きに出す通信(NTP、Webhook、メール送信など)がトンネルの外に漏れれば意味がなくなる点は、IPを隠したままサイトを公開するで扱ったとおりだ。VPS上の構成と比べて、事業者一社に依存してよいかを判断する必要がある。

限界と残るリスク#

この記事の評価のうち、ノーログ、RAMディスク、データベースの分離、2015年の押収事例は、すべて事業者自身の説明に基づく。第三者が確かめた記録はない。公式の説明と第三者の検証を分けて読むと、AirVPNは前者が詳しく、後者がほとんどない事業者だ。

評価は2026-11-08時点のものだ。公式の文書は更新が揃っているとは限らない。利用規約はいまも「AirVPNはOpenVPNを使う」とだけ書き、WireGuardに触れていない。About usのサーバー国数はサーバー状況のページと合わない。押収事例のスレッドのように、根拠となる投稿が後から消えることもある。決済手段も変わりうる。契約前には、登録ページ、購入ページ、プライバシー通知を自分で読み直してほしい。

ログ方針は、事業者の意思や所在国の法で将来変わる可能性がある。AirVPNの運営者自身が監査を受けない理由として挙げたのも、まさにこの点だ。その論理は監査だけでなく、この記事を含むあらゆる評価にも当てはまる。どの事業者を選んでも、VPN事業者は接続元のIPアドレスを見る位置にいる。接続が切れたときの漏れ(キルスイッチ。AirVPNでは「Network Lock」と呼ぶ)や、ブラウザ側の識別子は、VPNの選択とは別に対処が必要だ。どの対策も完全な匿名を約束するものではない。

まとめ#

軸評価(2026-11-08時点)根拠の種類
ノーログ実績△ 2015年のトロントでの押収でログがなかったと運営者が2023年に公表。裁判資料はなく、投稿は現在削除済み運営者のフォーラム投稿(アーカイブ)
監査× ノーログの独立監査なし。運営者が受けない方針を表明。バグ報奨金はあり運営者のフォーラム投稿、技術仕様ページ
匿名開設と決済✓ 実在のメール不要(任意の文字列可)。BTC・LTC・BCH・DOGE・XMRを仲介なしで直接受付。onionサイトあり。現金の記載なし登録ページ、購入ページ、FAQ、プライバシー通知
管轄とインフラ△ イタリア(ペルージャ)の運営者、EU法とイタリアの裁判所。起動ディスク+RAMディスク。EddieはGPLv3利用規約、プライバシー通知、運営者の投稿、GitHub
技術の先端性○ WireGuardの事前共有鍵(耐量子の備え)、入口と出口のIP分離、ポート転送、SSL/SSHトンネル、Torを経由した接続方式(Tor mode。OpenVPN、Network Lockと併用不可)。パディング型の解析対策とWireGuardの難読化はなし技術仕様ページ、FAQ、Torの利用ページ、運営者の投稿

入口の匿名性で選ぶなら、AirVPNは大手の多くより有利な位置にいる。顧客データベースの漏えいや、事業者への照会で名前が出ることを主に心配する脅威モデルなら、実在のメールなしの登録とMoneroでの支払いを組み合わせる意味はある。その場合は、表示名とパスワードを他の場所と使い回さず、パスワードを失えば戻れないことを前提に保管方法を決めておくとよい。

ノーログの主張に第三者の裏付けを求める脅威モデル、たとえば法執行機関を相手として想定する取材の現場では、AirVPN単独に頼る理由は弱い。Tor Browserを主にしてVPNを補助に回すか、令状捜査や公開監査の記録がある事業者と並べて比較するのが合理的だ。他社との横並びの比較は匿名性重視VPNランキング、証拠の段階の考え方はノーログVPN 2026年版にまとめている。

出典#

参照日はいずれも2026-11-08。